この雇用差別問題は深刻で、白人ではないスタッフがブランドの見た目にそぐわないとして解雇され(もしくは採用されなかった)、そのことでA&F社は訴えられたこともあります。
また、たとえマイノリティが採用されたとしても、やはり接客、販売に携わるのではなく、裏での活躍にまわされるケースが事実多いようです。そういったスタッフの多くは、アジア系アメリカ人、フィリピン人、メキシコ人、ラテン系アメリカ人であり、白人ではありません。
具体的な訴訟ケースとして、『Gonzales対A&F社』が挙げられます。白人に、より望ましい仕事を与えることで、マイノリティ従業員を差別したとして、A&F社が提訴されたケースです。同社は、販売店では白人ばかりを雇い、マイノリティ従業員を粗末に扱い、広告から(人種的)多様性を排除したとして、激しく非難されました。
A&F社を相手取った裁判、『Gonzalez対Abercrombie & Fitch社』の発端は、2003年6月、サンフランシスコ地裁に提訴された問題から始まりました。その内容は、A&F社が応募者や従業員(いずれも有色人種)に対して差別を行ったというもの。
A&F社はこのほかにも様々な団体から雇用差別、女性差別で訴えられており、
それらのケースが統合されて、最終的には一万人以上から成る集団訴訟へと発展しました。
2005年12月、A&F社は膨大な和解金、4,000万ドル(約48億円)を支払うことに。
ちなみに、原告側が受け取る金額は、彼らが受けた被害の程度と、裁判遂行への貢献度に応じて、数百ドルから数千ドルの間で調整されています。和解金のほか、和解契約として、A&F社には新卒採用、人材雇用、仕事の割り当て、人材育成等において、様々な義務が課せられました。
例えば、Fraternit(男子学生の社交クラブ)やSorority(女子学生クラブ)もしくは特定の大学をターゲットにした採用行為の禁止。アバクロンビー&フィッチのマーケティング(宣伝)素材に、マイノリティを取り入れ人種的多様性を反映させること。採用権を持つすべての従業員に対し、雇用機会均等に関する研修を実施すること等々。
これらの法令が順守されているかどうか、使命されたモニターが定期的にA&F社を審査し、報告を行っています。尚、この和解契約は少なくとも2009年までは有効だそうで、
その間にかかるモニター関連費や弁護士費はすべてA&F社の負担になります。この費用が1,000万ドルと予想されるため、この訴訟問題に関する同社の総負担額は5,000万ドル(約60億円)と見られています。
現在同社のホームページには、「多様性とインクルージョンはわが社の成功の鍵です」といったメッセージが掲載されています。モデル(写真)には、白人以外を使うようにもなりました。その努力を認めて、今後の変化に期待したいですね。
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