アバクロの最高経営責任者は、完璧主義なカリスマ
写真:アバクロンビー&フィッチ社 最高経営責任者のマイケル・ジェフリーズ。撮影はTom Tavee

アバクロの最高執行責任者、マイケル・ジェフリーズ 2007年で62歳を迎えるA&F社の最高経営責任者、マイケル・ジェフリーズ(写真左)。彼は、とにかく若い。
 言葉遣いも(若者言葉の“Dude”をよく使うとか)、体格も、ファッションも。若き学生時代に固執しているのか、アバクロンビーがターゲットとする若者たちのようになりたい願望が強いのか、その姿は一般の60代とは怖いぐらいにかけ離れています。
 60歳のときに染めたというブロンドの髪、アイドルなみに白い歯、こんがりと焼けた肌、鍛え上げられた体、シワのない顔、豊かな唇、どこをとっても若々しいです。ちなみに、その体は、毎朝会社のジムで鍛えている努力の賜物。

オハイオ州にあるアバクロ本社<写真:米国オハイオ州にある本社>
 1992年、ジェフリーズがA&F社の最高経営責任者になった頃、彼はラルフ・ローレンのようなカントリー・クラブ・プレッピー風の、もっと若く、ヒップなブランドを思い描いていたそうです。「アバクロンビーアンドフィッチのすべては、ジェフリーズについて」と言っても過言ではないほど、会社のいたるところに、彼の理想が反映されています。
 米国オハイオ州にある本社(写真右)で働く従業員たちは、顧客層(大学生)に近い年齢の者が多く、敷地内はまるで大学生がキャンパスを歩いているかのようらしです。もちろん、立派な大人の従業員もいますが。
 従業員のほとんどは、同ブランドのビーチサンダルを履き、やぶれたジーンズにTシャツかセーターを着用していて、モデル同様、やっぱり美男美女が多いようです。
 ジェフリーズの大学生に対する執着心は、決して全ての大学生(ターゲット層)に当てはまるものではありません。彼は、美しい者だけを好みます。「全員の面倒を見ることはできないよ(“You can’t take care of everybody”)」と、インタビューでざっくばらんに発言しています。
 アバクロンビーの男性服といえば、マスキュリンで締まった体の持ち主専用とも言えます。それを十分、意識して仕立てているのですから。ターゲットは、格好良く、美しく、楽しく、マスキュリンで、楽観的、最高にイケてるアメリカ人といったイメージでしょうか。

 ジェフリーズと共に仕事をしたことがある人は、彼のことを「頭はきれるが、要求が高く、熱狂的で、エキセントリック、派手」と話します。そして、多少なりとも「変わっている」と。
 1992年に同社の最高経営責任者になる前は、Paul Harrisという中西部の女性チェーンにいたそうですが、ここでの働きぶりは、まさにワーカホリック(仕事中毒)だったそう。ビジネスウィーク誌によると、彼は必ず本社の回転扉を二回まわり、ポルシェを毎日同じ位置に、同じ角度で駐車し、鍵はかけずに席の間に置いておく。そして、お気に入りの“ラッキー・シューズ”を履いて、会計報告書を読むとか。確かに、何だかちょっと、変わっていますね。
 私生活についてはあまり知られていませんが、息子がおり、妻とは別居中だとか。際どいカタログについては、あくまで「健全で遊び心がある」と主張。容姿が良い従業員を雇うのは、「彼らの魅力が容姿の良い人たちを惹きつけ、そうした格好良い、美しい人たちに向けてマーケット展開したいからであって、それ以外の人は関係ない」と、すんなり言う。最高経営責任者としては、かなりの問題発言!
 ターゲットにしているのは、クラスに必ず一人はいる人気者で、格好良く、魅力的で、友達も多い子たち。それ以外の子は(同ブランドの洋服に)関係ない。アバクロンビーアンドフィッチブランドは排他的なのだと、自ら公言しているところが凄い。「問題を抱えている企業の多くは、誰も彼もをターゲットにし過ぎている。若い人から年寄りまで、太った人から痩せた人まで。そうすると完全に標準的になってしまい、誰も疎外しないかわりに、誰もワクワクさせられなくなってしまう」と語る。

 LA育ちのジェフリーズは、パーティ用品専門店のチェーンを所有する父を持ち、子供の頃はカウンターやショーウィンドーをデザインしていたそう。Claremont McKenna Collegeで経済学を学び、その後コロンビア大学で経営学の修士号(MBA)を取得。1988年、リミテッドがアバクロンビー&フィッチを保有していた頃、同ブランドは年間2,500万ドル(=約29億円)の損失を出していました。そんなところにジェフリーズが登場するわけですが、その頃の彼は、今と比べて、もっと普通だったそう。
 当時は毎日同じ洋服を着て、見てくれよりもブランドの成功だけを考えていたとか。そして、ファッション、ビジネス双方において、最高のセンスも持ち合わせたジェフリーズは、アバクロを見事、セクシーで、吸引力のあるブランドへと育てあげました。
 コントロール・フリーク(支配魔)としても有名なジェフリーズは、モデルの採用から商品の配置まで、自ら決定するそうです。本社にはA&F社が手掛ける4ブランドのモデル店があるそうですが、店内の全てが完璧であるよう、ジェフリーズはそこで長時間を費やしているそう。完璧になると全てが写真に撮られ、細かい指示と共に各店へと送られていきます。
 ジェフリーズは店がどう見えるか、どう感じるか、どう香るか、徹底的にこだわる完璧主義者。アバクロンビー&フィッチのすべては、やはりジェフリーズなのでしょう。

 余談ですが、今ではラルフ・ローレンの方がアバクロを真似、Rugby(写真)という大学生向けのラインを展開。アバクロンビー同様、美しい販売員を雇っているとか。ちなみにRugbyはポロ・ラルフ・ローレンよりも安価ですが、それでもアバクロやアメリカン・イーグルよりも高価であるため、パイを食い合うことにはならなさそうです。
 最近表参道にオープンしたラルフ・ローレンの旗艦店で働く販売員の中には、モデルのような人たちが交じっています。ラルフの洋服を美しく着こなす彼らには、見とれるというより逆に圧倒され、「貴方は私のように、このブランドに相応しい?」と問われているようで、少々居心地の悪さをおぼえます。とはいえ、ラルフ・ローレンはデザイナーズ・ブランドの中で、最も美しいと私は思っています。







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